Dプラス スタッフblog

「医師の生涯のパートナー」を目指します

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山で生きること【猟師】

   

先日、古くからの友人の誘いで本物の猟師さんと約2日間
一緒に過ごしました。関西エリアの山の谷合に家があり、
そこでの生活を同行しながら垣間見ました。

自然に向き合い、呼吸を合わせ、その厳しさに圧倒され、
その優しさに抱かれながら、一日一日を踏みしめ味わいな
がら生きている、その方の言葉は本当に重いものでした。

猪や鹿と対峙する時、命の危険にさらされます。実際に、
年間に1~2人の猟師が亡くなっているそうです。パートナー
である猟犬も同様で、100キロ以上の猪の角で突き刺され
たり足を噛まれて振り回されると、容易に命を落とします。

全速力で走って突っ込んでくる猪、至近距離(2~5m)まで
引き付けて引き金を引くのが、その猟師さん(以下、杉さん)
の手法で相手を苦しめずに捕獲する杉さんの狩猟流儀です。

生きることは、懸命になること、命を懸けること、犬(イヌ
という言葉を使う時、杉さんは最大限の愛情を込めます)も
自分より何倍も大きい猪に立ち向かう、自分も命を危険に
さらす、そうやって命のやり取りをして、生命の糧を頂く、
だからこそそのお肉は大切に頂く。山に入り、風を感じ、
空気に耳を澄ませ、木々の声を察する。そのように本当に
自然に真摯に接している人の感性はこの世の不条理を容易に
見通している。経済活動を第一義としている現代の病巣の
核心を射抜いている。大資本による町の衰退や、発電の為
の山の開発についての所見等、驚くほど明快に社会現象の
真相を突いています。

さもありなんと思う。自然と一体なのだから。

杉さんが住む谷合にも町内会があり、ある時幹部が集まって
土石流が発生して村ごと押し流されるリスクについて話し合い
があったそうだ。山全体のことを考えての「山を蘇生して土石
流を防ぐ」という根本的な方策を打ち出した杉さん提案は軽く
流され、非常事態用の発電機(その他防災具)を皆が集まり
やすい場所に設置するという案で落ち着いたよう。川が増水し
て氾濫したら、一番流される場所に設置するのか?!ここでも
皆が便利に集まれるという視点ばかりが優先される。

杉さんは言う「山からの恵みでこんなに豊かな生活が出来て、
これまで山によって育てて貰ったのに、その恩恵を忘れ自分達
のことしか考えていない。この谷に住んでいる人達も、町に出て
会社勤めで給料をもらってそれで生活できている人が多いので、
山からの愛情を忘れている。」ふと、自分も自分で生きている
と思っているが、父母がどれだけ身を削って育てて来てくれた
のか、忘れてないか?と思った。まるで自分で生きてきたよう
な思いになってないか?とこんなことが頭をよぎった。

農家では、作物被害が甚大で獣用の罠を仕掛けている。猪や鹿
がかかった時には、杉さんも呼ばれる。一緒にいた2日間、毎朝
呼ばれて鹿を捕獲していた。目の前で、鹿が解体されるのを
生まれてはじめて見た。杉さんから自然と対峙する姿勢を感じ
ていたので、眼をそらすまいと腹を据えて、眼に力を込めて見た。

関節を切り折り、シカを逆さに吊るし、ナイフを下から上に腹を
切り開く。膨れた内臓が飛び出す。肝臓を切り取り、臓器を体から
外すようにバケツにゴロリと入れ込む。飛び散った血や粘液など
をホースの水で流していく。その日の夜に出た、その小鹿の生肉を、
自分は必死に食べた。まだ、幼い小鹿の顔が頭に浮かぶ。その小鹿
は罠につかまった時近くに母鹿がいて、最後まで近くで見つめて
いたそうだ。生肉を残しそうになったが、絶対に残すまいと必死に
食べた。

こういう話もしてくれた、農家では、被害を減らすために罠を仕掛
けて、猪や鹿を取るが、子供にはその獣の最後を見せないそうだ。
残酷なところは見せない、それもいけない。命を頂くことを小さい
頃から、ひと昔の日本人は普通にしていた。現実、事実、本当のこと
を知らないと、本質的なことを察知する感性が鈍る。効率、利便、
損得、そのことを第一にする時、全てが狂うようだ。だから杉さんは、
効率やお金、それらは求めないと断じて言っている。

こんな話もしてくれた。ある時、あまりに鹿が多いエリアがあり、
要望に応じて、3人の猟師がチームになって、鹿を追い込みながら
捕獲していた。大きな一頭の雄鹿が、鉄砲で片足を打たれながらも
必死に逃げ回って民家に逃げ隠れた。何とその場に、丁度学校から
帰って来たその民家の小学生が傷ついた雄鹿を見つけた。猟銃を
持って迫ってくる猟師のおじさん3人に対してその小学生はこの鹿
を見逃してくれと泣きながら訴えた。土下座してお願いしたそうだ。
「どうなったのですか?」とそういう言葉が自分の口から杉さんに
飛んだ。「現実を教えないといけない。その子を傍によけてとどめ
を刺した。」鹿がトラックに積まれ、運ばれていく最後までその
少年はワンワン泣いていた。杉さんは、その時のことに物思いに
ふけるよう話しながら「でも、子供にとってはとても大きく見える
大人の猟師3人を目の前にしながら、鹿の命乞いをするその少年の
勇気は立派だった。」と言った。

思いつくままに書いていたら、こんなに長くなってしまった。
しまった!

杉さんとのことは、また書く機会があるかも知れません。数日前
の体験なので、自分自身がほてっていて、思いつくままの文章に
なってしまいました。

自然に接すること、それはとても大事なことのように思います。

恐らく、人間も自然の輪の中の一部だからなのかな、と思いました。

ただ、頭でそう思っていることと、実際にそう生きることは、
全く別物ですね。

 - コンサルタントR