天上の響き
数日前、お世話になっている先生(心臓血管外科)を通して、世界的
トランペット奏者とお会いする機会がありました。
私のクラッシック歴は、幼少の頃、母が幾つかのレコードを聞かせて
くれたこと、大学時代にCDを100枚程収集したこと、それ以降は、
タイミングが合えば演奏会に行く程度です。交響楽でベートーヴェン
とモーツァルト、そして協奏曲でチャイコフスキーが好き、という
感じです。指揮者によって全く異なる世界を感じる交響曲はとても
不思議で魅力的です。
さて、その世界的トランペット奏者は、もとNHK交響楽団の首席
トランぺッターで、現在80歳を過ぎても現役でいらっしゃいます。
席を隣にして、日本酒を飲みながら、深くて滋味溢れるお話などを
サラリと気さくにお話しするさまは、感動的で、その場にいる幸せ
を感じました。
こんなに凄い人と出会えると知った時(出会いの約一週間前)私は
その方のCDを買い求めて、全神経を澄ませてその音色を聞いてみ
ました。そして、本当に吃驚しました。いや、、、、本当に、、、、
これがトランペットなのであろうか?また、このトランペット的で
ない繊細で、優しく、細くて力強い感触は何なのだろうか?CDを
7~8回繰り返し聞いても、具体的な言葉が出て来ません。何とか、
その方にお会いした時、自分の印象を言葉にして伝えたい(それが
最低限の礼儀のはず)そういう気持ちから、何度も聞いて、そして
思い浮かぶイメージから、何とかそれを言葉にしたいと考えて務めた
のですが、これだっ!という言葉に至りませんでした。後で気づいた
のですが、自分の知見と経験と人間性では、到達できない領域でした。
でも、お会いするまでに考え抜いて、捻りだしたフレーズは、
◆天上の響きのようです
◆フルートのような繊細さを感じます
◆女王の音色です
◆天の子守唄に思えます
以上のようなものでした。でも、今ひとつしっくり来ませんでした。
当日、その方とお話ししていて、楽器を演奏することに関する、深遠さ、
インスピレーション、そしてその場その時の全ての要素のタイミング等、
芸術、美というものは仕組んで現れるものではないのだな、という思い
になりました。
私が事前に購入して聞いたCDは、2011年の6月に、クリストゥス教会
(ウィーン)で録音されたもので、ご本人が「あの状況であの曲目を、
あのように吹けたのは余程のことでした。もう二度とあのようには
吹けないと思います。」と静かに仰った時、全身が震えました。
その方の表情の清々しさ、お人柄の温かさ、広さ深さ、、、、
何とも言えませんでした。
こんな出会いを頂いた、関係各位と、天に感謝したいと思います。