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「手術室の中しか見ない麻酔、、、」

      2017/02/16

この記事は、昨年末の日経メディカル(WEB版)に掲載されていた記事ですが、
大変恐縮ながら、深い共感を覚えましたので、その一部をかいつまんで掲載する
とともに、私のコメントも時折挟ませて頂きたいと考えました。

インタビューは、国内トップグループの医療法人の本院、板橋中央総合病院の
院長、兼麻酔科部長、新見能成先生へのものです。

私は直接の面識はありませんが、日本麻酔科学会のポスター発表会場で、発表が
終わって殆ど人気のない夕刻の時間帯、お一人で腕を後ろに組みながら、1つ1つ
の発表を順に見て回っている先生の後姿を拝見したことがあります。

新見先生は、順天堂大学時代に板橋中央総合病院で心臓血管外科の立ち上げる際に
お手伝いをし、その後、帝京大学を経て板橋中央総合病院に副院長(49歳)で招聘
されて、51歳で院長に就任されたそうです。

Q:医師の採用する基準があれば教えて下さい。
A:やっぱり責任感を見ます。それからやっぱりノリというか、勢いというものも
  あると思います。人が動くことには色々な要素があり、頭で動く人もいれば、 
  お金で動く人、腹で動く人とか、ハートで動く人とかね。私の場合、先ずは
  腹とハートでという感じでしょうか。
Q:あまりスキルでは選ばれないのでしょうか?
A:それは勿論ある程度のレベルは欲しい。ただ、病院ではチームを作ってもらい、
  そのチームとして力が発揮出来ればいいのかなと思います。いくら腕があっても、
  結局1人で出来ることには限界がありますから。

Q:病院運営において、病院(組織)の構造を考えるとはどういうことでしょうか?
A:組織の構造。お城でいうと石垣にあたる部分は、病院で言うと麻酔科であり、
  放射線科であり、病理科、リハ科などですよね。要するに、色々な診療科が
  共通して関わるよう部署が石垣の部分です。ここがしっかりすることが、病院
  にとって一番大事なことだろうと思ったのです。更にそれを含めて全体を支える
  土台となる事務とか、看護部とか、薬剤部、栄養科なども大事ですね。
Q:土台、石垣をしっかりさせることが院長の仕事でしょうか。
A:ええ。その部分をしっかりさせれば、具体的には、使いやすくなれば上に乗って
  いる診療科は非常に働きやすいのです。また、石垣が崩れてしまうと上はみな
  倒れてしまいますけど、石垣がしっかりしていれば、上の診療科は一つが倒れ
  てもまた作り直せるのではないかと。そういう発想で病院を整備して来ました。
  逆に石垣が崩れてしまっている病院は危ういですよね。

Q:外科医と麻酔科医の関係についてどういうお考えですか?
A:私は、当院の十数人の麻酔科医、もう最強だと思える位きっちりとした麻酔科
  を作ってきたと自負しているのですが、常々彼らに言っているのは「外科医に
  徹底的に付き合いなさい」ということです。外科医に感謝されるような、信用
  されるような麻酔科医。外科医が腹を括った手術だったら全部受けて、外科医が
  少しでも手術をしやすくするようにと言っています。そこに集中できるのが
  いい麻酔科医だと。当院の麻酔科は救急もやります。外科の症例を増やすにも
  協力しています。ですから、こっちが偉い、偉くない、なんてことではなく、
  外科医が最高のパフォーマンスを発揮できるようにするのが、麻酔科医の仕事
  だと考えています。

Q:ある一つの診療科がなくなってもオペ数は2割の低下にしかならないけれど、
  麻酔科が半分になったらもっとオペが出来なくなりますよね。
A:麻酔科に限りませんが、土台、石垣が崩れると、病院全体のパフォーマンスが
  落ちますから、石垣部分については、1人のドクターが幾ら稼いでいるか、という
  ことよりも、どのドクターがいなくなったら、あるいは石垣が壊れたらどれだけ
  のものが失われるかという視点が大切なのではないかと思っています。

Q:麻酔科医はフリーの医師が増えていて、麻酔科医の不足をフリーの麻酔科医で
  何とか補っている施設も少なくありません。そうした状況をどうお感じですか?
A:当院のスタッフには、フリーにはなるなと教えています。医者としての財産は、
  一緒に働いた外科医から得た信用、信頼だと。お金じゃないんだと。病院が
  フリーの医師を雇うのは、ただやむを得ない事情からで、そこに積み上げた信用
  は無く、一症例ごとにお金で繋がっているだけです。フリーの麻酔科医を否定は
  しませんが、フリーな立場で仕事をして、お金は稼いだとしても、一方で信用を
  作る機会を失っているのではないかと私は思うのです。スタッフには、人生で
  一番大事なのはそれだろう、と話をしていて、皆わかってくれていると思います。
  病院からの信用、他科の医師、看護師をはじめとする病院スタッフからの信頼
  こそが財産なのだと思います。

Q:この先、麻酔科は病院においてどんな位置づけになっていくのでしょうか?
A:麻酔科医は呼吸と循環の管理のエキスパートですから、院内で専門性を発揮できる
  場面は多いと思っています。ただ、1つ1つの場面で活躍するというだけでなく、
  この先、病院が新しいことを取り入れて進化して行こうとする時、あるいは各
  診療科がチャレンジする時、それを実現する為の支援をするのが麻酔科の役割なん
  だろうと思っています。麻酔科医が病院の進歩を牽引する、という格好つけ過ぎ
  ですがそんなイメージです。その為にも、幅広い知識を身に付ける必要があるので、
  「New England Journal of Medicine」や「Lancet」をはじめとして様々な論文雑誌
  のレビューを使った勉強会をして、各診療科の進歩を把握するという取り組みを
  ずっと続けています。手術室の中だけしか見ない麻酔科医はうちは要らないって、
  言っているのです。色々な場面で活躍してみたい、という麻酔科医を集めましてね、
  先々は、在宅医療でも活躍の場があると思っています。

Q:最後に若い医師にコメントを頂ければと思います。
A:今の世の中は目まぐるしく変わる時代で、医療も例外ではないと思います。今まで
  の先輩方が辿ったようなキャリアプランを同じようには描けないかも知れません。
  だからこそ、しなやかな実力を身に付けて欲しいと思います。専門性にばかり直目
  されがちですが、しっかりしたプライマリ・ケア能力の上に専門性を持つことが
  有効で、それでこそどんな環境、場面に順応していけるのではないでしょうか。
  更には、今後、再生医療や遺伝子治療など新しいサイエンスが進んで行きます。
  倫理観や正義感などに基づく判断が求められる場面がもっと増えて行くでしょう。
  そういうものを自らの中にしっかりと作って行くことが大切です。

Q:日本は診療科を自由に選べる割には、それなりに分かれて行きます。皆、面白い
  と思うものが少しずつ違ってくるのですね。
A:意外と分かれますよね。
Q:ただ、バランスがいいかと言われると、そうでもありませんね。
A:そうですね(笑)最適では無いですね。
Q:自分に向いているものにいつ出会えるのでしょうか?
A:人によりけりで、最後まで中々見つからないという人もいると思います。ただ、
  早く目標を持った方が、機会が増えると思います。目標に関係した情報を集める
  ようになりますからね。情報イコール、チャンスですから、早くに目標を持った
  方が、チャンスが広がると思っています。
Q:早く目標を見つけるためには、出来るだけ色々なものに触れた方が良いという
  ことでしょうか。
A:私はむしろ、自分と向き合う事じゃないかと思っています。自分と会話すると
  いうか、自分の経験の中で、何が楽しかったか、自分の感情に敏感になる、何か
  を見聞きした時に自分はどう考えたか、等です。そうすると、「あっ、自分は
  こういうものが好きなんだ」と感じることが出来る。1日に5分でもいいから、
  自分と向き合う時間を持って欲しいと思います。目標が持てれば、ドクターと
  しての生活に潤いが出てきますよ。

以上、インタビュー記事を、ピックアップして、掲載させて頂きました。

冒頭で、私の見解も必要あらば、挟んでみたいと書きましたが、何も言えないという
ことに気付きました。新見先生の仰ることに、強い共感と深い敬意を感じます。

私は若い先生方と面談をする際、この記事を出力して渡しています。

仕事で大事なのは信用であり、その他のもので代替が効きません。
人と人との関係も同様であり、それさえあれば怖いものなしです。

 - コンサルタントR