きつい面接
前回の続編ということで、最近あったきつい面接をお伝えしたいと思います。
それは、40代半ばのスキル・人柄ともに申し分ない先生で、他の先生方からも
悪いことは一切聞こえてこない先生(A先生)の面接です。そのA先生を北関東の
ある病院にお連れした際の話です。
大学教授には春の段階から来春(2017年4月)には民間病院に移る旨を伝えて
いて了承を頂いているものの、全く民間病院のことを知らないので、先ずは興味
を持った北関東のその病院の面接を受けてみましょう、という流れでした。
通常、病院の事務長がベテランであったり、またはその病院にこれまでドクター
をお連れした事例があれば、事前の準備は速やかに、ある程度、具体的・心理的
準備ができますが、その面接は、事務方が着任したばかりで勝手が掴めておらず、
そして私も(会社としても)この病院の面接がはじめてであっただけに、この時
だけは、不安も入り混じった複雑な思いでした。
面接の前日、A先生から「今回は軽い気持ちの面談・見学だと思っているので、
そういうざっくばらんな感覚で臨んでいいでしょうか?」と聞かれましたので、
とっさに「先生、こちらは軽い感覚でも、面接をする立場からしますと、是非
入職して頂きたいということで、真剣勝負であたってくる場合もありますので、
事務方がどのような根回しをしているのか(気が効いているか)も分かりません
ので、そして面接は、面接官(院長または理事長、又は診療科長)によって
千変万化ですので、相手のペースに沿って受け答えをして頂けませんでしょうか?
一応、それが面接をお願いした方の礼儀でもあります。」とお伝えしました。
相手が、ラフに聞いてくれば、ラフに当たり障りなく、相手がシッカリ厳密に
聞いてくるなら誠意をもってシッカリ応える、という感じです。
はたして、面接室に通されて、その面接官である院長が部屋に入る5分前に、
事務方から「院長先生は、さる大手企業の会長(誰でも知っているような)の
ご子息で、医療は勿論のこと、医療経営にも通じていて、質問は厳しいかも
しれません。」と言うではありませんか!!自分とA先生は、エエッ!!と我が
耳を疑い、お互いに顔を見合わせてお互いの眼のまん丸さを確認し合いながら、
何でこんな大事なことを今言うのよ、前もって言ってくれなきゃダメじゃん!
と心で叫びながら、しかし、あと数分に迫った面接に褌を締め直しました。
案の定です。
颯爽と入って来た院長先生は、どさっとソファーに深く腰掛け、A先生の
履歴書に目を落とし、ほんの1分も経たないでA先生を見据えて言いました。
「それでは、早速で申し訳ないけれども、ご自身の学歴・職歴をご自身の
言葉で仰って頂けますか?」でたぁ!まるで、大手企業の中途採用面接その
ものです。正確な卒年や入職年、病院名、簡潔な入退職の理由を含め、順序
良く要領よく答える必要があります。横にいた私は背骨は垂直に硬直し、
冷や汗が流れるのを感じました。
しかしまた、こういう緊急事態の時にこそ、その人の本性が出るのだと思い
ます。A先生のお答えの誠実なこと、真摯なこと、しかも相手を不快にしな
い智慧のあること、横にいて本当に感動致しました。
履歴書の説明の後も、厳しい質問が4つか5つ続きました。当直オンコール
をめぐる所見や、新専門医制度について、何故大学関連でなくてこの病院
なのか等々、ウェルカムというより相手の覚悟と見識を見定めるための、
野球で言えばストライクゾーンギリギリの振っても芯で捉えられないよう
な際どいコースに剛速球という感じです。本当に驚きました。
それに対する、またA先生の本気の回答の見事さも凄いものがありました。
面接の帰りがけ、A先生が「院長先生が本気だったから、私もぶっちゃけ
本音で応対したけれども、あれで良かったですか?」と笑っていいのか
分からない表情で聞かれましたので「あれで最高でした。私も先生の本当
の想いを理解できました、有難うございます。」と答えました。
人との出会いは、よく一期一会といわれます、仕事を探す面接であっても
人と出逢うということに変わりはなく、その一期一会はかけがえのないもの
かも知れません。後に続くこともあれば、そうでないこともありますが、
その面接は、本当に濃縮されたものでした。
振り返りますに、その院長先生は、病院をしっかり運営し地域医療を守る
ため、そして従業員を守る為、真剣に必死なのだと思います。その責任感
のある言葉、嘘をいわずに弱点もさらけ出して隠さない強さ、そして周り
を思いやる優しさ等、剛柔兼ね備えたた素晴らしい先生だと思いました。
この先生の下なら、やる気のある先生をお連れできる、と確信致しました。
何事も準備が大事ですが、準備が出来ない時、その時は、その心構えは
寸分も緩めてはいけない、と改めて思いました。